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NME REPORT ~栄養経営士活動報告 Vol.10

専門職分野と経営分野の二足の草鞋で
求められることに応えていきたい

管理栄養士に加え、臨床心理士、公認心理師の資格も有する本多千鶴さん(社会医療法人同愛会)。病院の栄養管理室から法人本部の戦略推進室に異動し、現在は臨床業務に加えて組織運営・経営戦略といった分野でも活躍している本多さんにお話をうかがいました。

専門職を活かした臨床業務に加え
経営戦略の策定にも関わる

栄養経営士の本多千鶴さん
本多千鶴さん

――現在のお仕事を教えてください。

今は法人本部の戦略推進室に所属しています。現在担当している業務は大きく2つに分かれていて、一つは管理栄養士と公認心理師という専門職を生かした臨床業務です。具体的には法人グループ内のクリニックにおいて栄養指導、心理検査、カウンセリング等を行っています。博愛病院には栄養管理室がありますので、基本的には病院の栄養管理業務には関わっておりませんが、病院所属の管理栄養士として出前講座等、地域における健康教育活動を担当しています。

もう一つは、組織運営や経営戦略に関する部分です。こちらについてはまだまだ勉強しながら経験を積んでいる状況です。毎週1回は経営統括部会議に参加して、新しい取り組みを企画提案したり、法人内で進めているプロジェクトにおいて任された業務の進捗状況を報告したりしています。地域連携や広報、各種調査(職員満足度調査、開業医満足度調査、外来患者通院手段調査、部門別個人目標設定・面談方法の調査…)など業務内容は幅広く、新たな企画が始動すれば参加する場合もあります。本年度は、今年秋に開設する医療支援型グループホームにおけるクラウドファンディングの担当となり、新しい経験とつながりを持つことができました。

――どのような経緯で法人本部に異動されたのでしょうか。

2013年に経営改革として法人幹部に経営専門の方が加わることになり、各部署長のヒアリングが行われ、自部署の業務を金額ベースに数値化して業績報告書を月1回提出することになりました。その後、2016年からはBSC(balanced scorecard)が導入され、各部署が財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点で目標を管理していくという体制になりました。栄養部門も同様に、「経営」を意識していくことが求められるようになり、自分の部署のことだけを考えていればよいのではなく、病院における栄養部門の立ち位置や管理栄養士とは病院のなかでどのような存在なのかといったことを考えて動く必要が出てきました。そして、この状況を他職種・他部署に理解してもらうためにはどうすればよいのか、考えるようになりました。

その方法を模索しているなかで、栄養経営士の資格にも出会い、取得することができたのですが、経営の勉強をしていて資格を取得できたこと、栄養部門に若い管理栄養士が入ってきて体制が充実してきたこと、法人本部でも現場の意見を反映できるような体制をつくろうとしていたことなど、たまたま様々な要素がぴったりあったタイミングとなり、法人本部に異動することになりました。

健康教育活動
地域における健康教育活動として出前講座なども行っている

栄養と心理の両面からのサポートができる強みを活かす

――栄養と経営という2分野に加え、臨床心理士、公認心理師の資格も取得されていますが、心理学を学ぼうと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

主に栄養指導の対象となる糖尿病患者さんやがん患者さんには、心理的なサポートを必要としておられる方がおられます。もともと栄養指導を行っている中で心理学を専門的に勉強した上で患者さんに関わりたいという思いがあったことから、管理栄養士をしながら大学院に行き臨床心理士の資格を取り、その後、公認心理師も取得しました。

心理学を学ぶなかで、これまで自分がどのように患者さんに向き合ってきたのかを改めて見つめ直す機会になり、いろいろと反省点が見えてきました。また一緒に働いている管理栄養士や看護師さんたちが抱えている問題がどこにあるのかということを客観的に見られるようになったという変化もありました。患者さんの一面に焦点を当てすぎていないか、医療者の目標と患者さんの目標がずれていないか、そういったことを整理できるようになったことで患者さんとの関係性が変化し、患者さんが安心して情報を提供してくれるようになったと感じています。

現在兼務している博愛こども発達・在宅支援クリニックでは、クライアントに発達障害や不登校のお子さんが多くいます。その中には食に対して強いこだわりがある子どもたちもいます。栄養面から介入するパターンもあれば、心を中心に介入しながら親子間の食のつながりに話を向けることもあります。今は、心理師をしている時は栄養士が役に立って、栄養士をしている時は心理師が役に立つというような、両方の資格を活かすことができていると感じていますし、心理学を学んで本当に良かったと思っています。

何事も広い視点でとらえて考えることが重要

――臨床の現場から法人本部という事務方に異動されて、どのような変化がありましたか?

これまで見えていなかった部分がたくさんあったことに気づきました。臨床にいた時には事務部門が何をしているのか十分に理解していなかったと分かりました。病院が組織として成り立って、医師や看護師をはじめとしたメディカルスタッフがスムーズに業務を進められる環境が整っているのは、事務部門の協力があるからだということです。

実際に事務部門の中で仕事をすることで、私自身の「患者第一」という視点が強すぎて、組織運営や病院経営という視点が不足していることを認識できました。

また、事務部門にいると他業種の方と関わることも多くなるので、いろいろな方々から見た医療業界、医療スタッフに対するイメージを伺えたことも、新たな気づきにつながりました。そういった気づきが、今自分が行っている栄養指導の場面にも大いに生かされていると感じます。目の前の患者さんだけではなく、その人自身を知ろうとすることで、例えば治療に対して前向きになれない理由が見えてくることもあり、食事や栄養以外の話が多くなることもあり、もしかしたら患者さんは私が栄養士だということを忘れているかもしれないと思うこともありながら、今困っていることや楽しみにしていることを聴くことで、こちらが伝えたいことへも耳を傾けてもらえていると感じることができています。

管理栄養士という資格だからこそできる人生に近いところでの関わりを

――管理栄養士という資格を客観的に見ると、どのような職種だと思われますか?

栄養士という職種は患者さんの人生に近いところにいる役割だという印象を持っています。看護師は「現在の治療」という部分に近く、栄養士は過去と未来の食を通した「生き方」という部分に近いと思います。看護師やリハビリスタッフの今という関わりと、管理栄養士・栄養士の過去も含めた関わりは、少し違うのではないかと考えています。

現在は「管理栄養士も変わらなければいけない」という流れのなかで、「チーム医療に参画して栄養面からの提案を」ということが求められます。もちろんそういった治療的な関わりもしなければならないのですが、患者さんに寄り添う関わりも必要です。その両方を頑張らなければならないと思い過ぎて、一生懸命で真面目な方が多い職種だと思います。

大切なのは自分の得意・不得意を理解したうえで、「自分がどちらに向いているか」を客観的に判断することではないでしょうか。得意なところはどんどん伸ばしていけばよいのですが、苦手なところは勉強して克服するだけではなく、「誰かにフォローしてもらう」という考えも必要ではないかと思います。「誰か」は栄養部門の人に限らず、他部門の方でもいいと思います。「栄養のことは栄養士がしなければならない」とあまり思いすぎないで、「栄養は体や心のすべてにつながっているから、患者さん自身を見よう」と思っていただくと、もっと余裕をもって関わることができると思います。

「正しい答えを伝えたい」と考えている栄養士さんはとても多いと感じているのですが、何が正しいかは関わる立場によっても違います。自分がしたいこと、医師や看護師が求めていること、患者さんが求めていることはそれぞれ違って当然なので、そこをきちんと話し合える環境が大切だと思います。「教えてください」と言える勇気があったら、他のスタッフからも患者さんからも頼りになる存在になれるのではないかと考えます。

――今後やってみたいことや取り組みたいことを教えてください。

これからも専門職として臨床に携わりながら、利用者のニーズに対応していきたいと思います。また、当院はとっとりSDGsパートナー制度に参加していることからも、地域における持続可能な医療福祉の提供とは何かを想像しながら、求められることに応えられる企画にチャレンジしていけたらと思っています。

まだ夢や想像の段階ですが、キッチンカーのような移動販売の形でこちらから出向いていってその場所で何かできないかなとか、当院のように交通機関が少ない地域では、ご自身で運転できなくなると通院手段がなくなってしまう方が多くおられますので、送迎バスを循環させて、その中で栄養指導や教育講演みたいなものができないかなとか、訪問栄養指導で関わっている経腸栄養のお子さんのお母さんが本当に料理上手なので、一緒に治療食(経腸栄養食)を作って販売できたりしたら楽しいかなとか。まだまだできることはいろいろあるように思います。これからも未来を見据えた提案ができる力を身につけるために、同業者や他業種などさまざまな方々と関わり、学びを深めていきたいです。

訪問栄養指導訪問栄養指導
訪問栄養指導では母親と一緒に治療食を作りながら、家族も含めた関りを心がけている

【企業概要】

社会医療法人同愛会

鳥取県米子市両三柳1880

関連施設:博愛病院(199床:一般病床(急性期)72床、回復期リハビリテーション病床30床、療養病床(医療型)38床、地域包括ケア病床59床)/介護老人保健施設やわらぎ/博愛こども発達・在宅支援クリニック/ふくよね博愛クリニック/医療支援型グループホーム博愛(2023年秋開設)

URL https://www.doaikai.jp/



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