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NME REPORT ~栄養経営士活動報告 Vol.5

コストの見直しに繋がる特別食加算算定向上に向け
医療の質を保障しながら新たな取り組みにチャレンジ

砺波医療圏の中核をなす総合病院に勤務する栄養経営士の澤木英子さん(市立砺波総合病院栄養科)。病院が経営改善に向けて動いていくなかで、医療情報管理室から指摘されたのが特別食加算算定率の低さでした。そこで澤木さんは自部門の組織マネジメントや他部署との連携といったさまざまな業務改革を実践。設定されたKPIの指標を見事クリアするなど、大きな成果をあげています。

算定率向上までの道のりや苦労したポイントなど、具体的な業務改革の内容についてお話を伺いました。

公的病院対象の経営セミナー参加を機に業務改善に取り組む

澤木英子さん
栄養経営士の澤木英子さん

――特別食加算の算定率向上に向けて動いてみようと思ったきっかけについて教えてください。

最初は医療情報管理室から特別食加算の算定率の低さを指摘されたことでした。そのときに、伸ばせる可能性があるので病院として力を入れていきたいということと、そのために外部の経営セミナーに参加してみないかというお話をいただいたんです。

その当時、自分は栄養科の中で上から2番目のポジションでした。いずれ自分が上になったときのことも考えはじめていて、病院の中での管理栄養士の動きを周囲に見せることで、増員をはじめ栄養科としての要望も聞いてもらえるのではないかという思いを持っていたんです。そのためにもいろいろ動いてみようと思っていたことと、他の病院の現状等も聞けるという話もあったので、そのセミナーへの参加を決めました。

富山県の公的病院を対象とした経営戦略セミナーで、当院からは栄養科と薬剤科で参加したのですが、ほかの病院は医事課の方が多く、正直「とんでもないとこに来ちゃったな」と(笑)。それでも何度か参加しているうちに、私たちが来ているということが伝ったのか他院の栄養士も参加するようになって、情報交換もできるようになりました。ここで他の病院の栄養士と抱えている悩みなどを共有できたことは自分にとっても大きかったです。

――実際の活動としては、どのように進めていかれたのでしょうか。

病院として特別食加算の算定率アップに取り組むことになり、まずは栄養科としてできるところから始めようということで、既往歴と持参薬で当たりがつけやすい糖尿病の方を対象に、特別食への食事変更を提案するようにしました。

もともとの算定率が低かったこともあって、取り組み始めてすぐに結果が出てきたのですが、少し経つと数字が伸びなくなってしまいました。管理栄養士の側から食事変更を提案してもなかなか採用してもらえず、部下の子たちも「せっかくやっているのに……」とモチベーションが下がってしまうこともありました。

そこで経営管理室に協力してもらって未算定の症例について分析調査を行い、効率よく提案できるように業務の見直しを行いました。また、もともと栄養指導がやりたくて入職してきた職員に対して、病院の経営のことも考えて数字を出していくことの重要性なども改めて伝え、「なぜこれをやれなければならないのか」を説明し、意思を統一させるように働きかけていきました。

少しずつ数字が上がってくるなかで、病院経営のKPI指標にも特別食加算の算定率が組み込まれるようになったんです。院内でもその数字が共有されるようになると、管理職も含めて他部署の方から「栄養科の数字上がってるね」と声をかけてもらえるようになりました。栄養士の動きが病院のなかでだんだん見えるようになってきたのかなと感じられるようになると、これまではあまり聞いてもらえなかった栄養士からの提案も、受け入れてくれるようになったんです。逆に「特別食とれる病名を持っているけど、どこからオーダー入ればいい?」と相談されるようにもなりました。自分たちの動きがきちんと見てもらえていると感じますし、それが栄養科全体のモチベーションアップにもつながっています。

他部署との連携強化でさらなる算定率向上を実現

――取り組みを続けた結果、KPIの目標値を達成されましたが、一番の要因は何だったのでしょうか。

算定率の向上において大きかったのは、病院として入退院支援加算の取得に力を入れていくことになり、入退院支援室との連携が強化でき、入院時に特別食の提案ができるようになったことです。以前は入院してから病棟に提案しても、手術などが入るとクリニカルパスで食事オーダーが動いていくので一般食に戻ってしまうケースがありました。入退院支援室と連携がとれるようになったことで予定入院の患者の情報をカルテを通じてこちらも把握でき、外来にも伝えられるようになりました。

そのおかげで予定入院の患者が特別食をオーダーされる機会が増えて、栄養科だけでやっていた時から比べてみるみる数字が上がっていきました。自分たちの動きだけでは達成できなかったと思いますし、他部署と一緒に取り組めたということが一番大きかったのではないかと思っています。

人や状況に依存しない体制を構築し、新しいチャレンジを

――最後にこれからの目標についてお聞かせください。

当院は感染指定病院のため、コロナ患者の受け入れの影響によりいつもより一病棟分程度患者数が少ない状況です。それで管理がしやすくなっているという現状もあり、これが元に戻ったときにどうなるのかという不安もあります。でもこの管理しやすい状況で形を作れたことはよかったと思いますし、部下たちの働きには本当に感謝しています。

だからこそ、まずはこの数字を維持していくことが大事だと思っています。「このメンバーだからできる」「今の病院の現状だからできる」ということではなく、メンバーも状況も変わったとしても誰もが当たり前にできて、それが継続できるような体制を構築していきたいですね。

いずれ人員に余裕ができれば、入院時のオーダーでアレルギーの有無や食事内容なども細かくチェックできるようになり、さらに手厚い対応ができるはずなので、そこも目指していきたいと思っています。

またこれから特に力を入れていきたいと思っているのが「絶食で入院される患者さんの拾い上げ」です。当院は急性期病院なので絶食で入院してくる患者さんが多く、誤嚥性肺炎や脳出血、脳梗塞の患者さんで入院時に食事が出ない場合はいつから食事が出るのか把握しきれていないのが現状で、気づいたら食事が始まっていたり、特別食の提案が出来ず特別食を食べないまま退院していたりというケースもあります。

今はコロナの関係で患者さんが少ないとはいえ、管理栄養士1人で2病棟(80人近く)をみているので、全員のカルテを毎日チェックするのは厳しいのが実情です。そこを拾い上げられるような仕組みを考えて、入院中1回でもきちんと対象の人に特別食を食べていただけるような仕組みにできればと思っています。

【病院概要】

市立砺波総合病院

富山県砺波市新富町1番61号

0763-32-3320

URL https://www.city.tonami.toyama.jp/

病床数:471床(一般病床418床、精神病床44床、感染病床4床、結核病床5床)