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インタビュー

代表理事インタビュー

目先のコスト管理にとどまらない
栄養経営士が持つべき視点とは

栄養科の収益が厳しいから、思うように栄養補助食品を使わせてもらえない…。そのような状況にある施設も少なくないと思われます。しかし、本当に使いたい栄養補助食品を使うことはできないのでしょうか? ちょっと視点を変えてみることで、現状抱えている問題を解決することができるかもしれません。それこそが栄養経営士が担う役割になるはずです。栄養経営士に期待される役割について、宮澤靖代表理事にグローバルコストの観点からお話しいただきました。

栄養部門さえ黒字になればいいのですか?

これをお読みになっている管理栄養士の方々が勤務されている施設では、十分に食事を摂取できず、推定必要エネルギー量を充足することが難しい状態の患者さんが少なからずいらっしゃると思います。そのような場合、私たちの施設もそうですし、恐らく読者の方々の施設もそうだと思いますが、不足するエネルギーを栄養補助食品等の提供で補おうとされることでしょう。しかし、ここに1つの壁があります。栄養補助食品等のコストです。

実際、使いたい栄養補助食品を挙げても、「コストがかかるから」という理由で採用されなかったという経験をおもちの管理栄養士の方は少なくないと思います。そのようなことが続いた結果、「うちの施設ではムリ」と考えてしまっている方もいるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。

たとえば、皆さんの施設が診療報酬の入院時食事療養費(Ⅰ)を算定しているとします。その場合、1日当たりの入院時食事療養費は1920円となります。さらに特別食加算の228円がつくと、2148円。ここに食堂加算の50円が加わると、2198円です。1食当たり、約730円の計算になります。これだけ算定できるにもかかわらず、コストの面から栄養補助食品等を付加することができませんか?

経鼻経管栄養管理の患者さんのケースで考えてみましょう。この場合、入院時食事療養費は流動食のみの提供の場合1食575円になりますので、濃厚流動食を経管栄養法で提供していると1日当たり1725円これに1日当たり60点(600円)の鼻腔栄養管理加算を算定できます。合計で2325円です。仮に濃厚流動食品の納入価を1㎖当たり1円で、1日当たり1200kcal(㎖)投与する場合、そのコストは1200円となり、入院時食事療養費との差額が1125円となります。経鼻経管栄養の患者さんの数だけ、この金額をいただくことになります。これでもまだ不足ですか? しかもここには光熱費や調理師の方々の人件費はほとんどかかっていません。それでもまだ、高過ぎて使えない濃厚流動食品があるのでしょうか?

今、日本で最も流通し、使用されている濃厚流動食品は、最も納入価の安い製品であると聞いています。もちろん、わざわざ高い製品を使って、大きな赤字を出すべきと言っているわけではありません。安価で患者さんの病態でマッチングしている製品であれば、それを使うにこしたことはありません。しかし、コストのみで選んだ製品を使っているとすれば、その理由を患者さんやご家族に説明できますか?

仮にコストの面で使用すべき製品を使えず、患者さんが誤嚥性肺炎を発症したとしましょう。その場合、一般的にゾシンという抗菌薬が投与されます。この薬剤ですが、1アンプル2500円です。1日4回投与したとして、1週間で7万円となります。こうした状況が続くと、栄養部門単体で考えれば管理栄養士の涙ぐましいコスト管理によって黒字になったとしても、薬剤部は大赤字となり、結果として病院経営が傾くことになるかもしれません。それでも栄養部門さえ黒字になればよいのでしょうか。

そうではなく、病院全体の経営を見据えたうえで、必要なコストについてはその必要性を根拠となる数字とともにしっかりとアピールし、適正な製品を使用することで、結果として病院の経営改善に寄与することこそが、病院における栄養部門の存在価値を高めていくことになるのではないでしょうか。それこそが、私たちの考える栄養経営士が担うべき役割になるのです。

栄養経営士が創りだす、新しい管理栄養士の未来

2013年に米国で「経口補助食品(ONS)の臨床的意義」という調査結果が報告されました。この調査は、2000~2010年の10年間にわたって、米国460施設・4400万人の成人患者について、入院患者におけるさまざまな経費、在院日数、30日以内の再入院率を評価したもので、結果、経費・在院日数・再入院率のいずれもがONSを使用したほうが有意に低減することがわかりました。つまり、目先の食費削減というコストにとらわれていては、患者さんの栄養状態が増悪し、感染症や褥瘡などの合併症のリスクを高め、ひいては施設経営を悪化させることになるのです。

このことからもわかるとおり、大切なことは、私たち管理栄養士が病棟に常駐し、患者さんのベッドサイドできめ細かく栄養アセスメントを行い、患者さんの病態をしっかりと診て、明確な根拠をもって必要な栄養補助食品等を医師に提言することなのです。それができなければ、私たち管理栄養士は診療報酬や介護報酬において1円も課金されず、施設運営に何ら寄与することができないのです。

私たち日本栄養経営実践協会は、施設経営というグローバルコストの観点から栄養管理をとらえ、すべての方に最適な栄養サポートを提供できる管理栄養士のマネジメントリーダーの育成プログラムをご用意しています。まずは栄養経営士の資格認定基礎講習(表)を受講いただき、栄養経営士に期待される役割や果たすべき使命について理解を深めてください。そのうえで、次のステップである栄養経営士をめざしてほしいと思います。

10年後、医療・介護の世界で管理栄養士としてしっかりと生き残っていくために私たちと一緒に学び、栄養経営士としてともに管理栄養士の新しい未来を創っていきましょう。

「栄養経営士ガイドブックvol.2」(2015年4月30日発行)より