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栄養経営士活動報告

セントラルキッチン化で業務の手間を軽減
診療スペースを増やし収益増加に貢献

現在、病院給食は原材料費や水道光熱費の高騰、物流コストの増加、そして慢性的な人手不足により危機的状況にある。安全で安定した給食提供を続けるためにセントラルキッチン方式を採用した、社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス海老名総合病院の事例を紹介する。

厨房機能はすべて院外に出し 空いたスペースを診察室に

海老名総合病院では二年前から給食システムをセントラルキッチン方式に変え、院内では調理をしないというコンセプトで運営している。新システムの導入にあたり、尽力したのが同院栄養科科長代理で栄養経営士の齊藤大蔵さんだ。

齊藤大蔵さん
海老名総合病院で栄養科科長代理を務める齊藤大蔵さん

もともと同院の給食は完全委託で管理栄養士は栄養管理業務に注力していたが、法人本部の「診療スペース拡充のために厨房を縮小したい」という意向により、厨房機能を外部に出すことになった。委託先からも「管理費は下げるので病院からも厨房に入って欲しい」という要望があり、このまま続けるのは難しいと齊藤さんは感じていたという。

「委託給食をやめ、最初は常食で冷凍弁当を導入したものの、嚥下食への対応などでかえって手間がかかると判明しました。そこでセントラルキッチン方式にしようと決め、自院の条件にあうところを、手を尽くして探しました」(齊藤さん)

その後、2019年に病院の取引先である商社を通じて知り合ったのが、現在のパートナーである株式会社第一食品である。第一食品は本社のある関西を中心にトレイメイクされた病院給食を提供しており、関東に工場をつくり事業を開始するところだった。 そこから海老名総合病院は第一食品相模原工場の顧客第一号となり、タッグを組んでシステムやメニューの開発が行われた。相模原工場の稼働前は、齊藤さんは大阪の工場にも足を運んだという。そして、2021年に今の給食システムへと切り替わった。

海老名総合病院の場合、工場の立ち上げと平行だったので切り替わるまで一年半かかったが、現在は半年程度で移行できるとのこと。万一、急に委託先の撤退が決まったなどという場合は、再加熱カートが受注生産なのでその期間がどうしても必要だが、在庫次第で短期間の対応も可能だそうだ。

食事例
病実際にトレイメイクで提供されている食事例

食事の単価だけを見るのではなく トータルコストで考えよう

第一食品が提供する病院給食の場合、トレイメイクされたものがカートで納入されるので、病院側はカートを受け取り、検品後温めて配膳するだけで準備が終わる。食後はトレイを回収し、カートに載せて工場に返却するだけ。毎日の残食量チェックや食器洗浄などはすべて工場で行うため、厨房で行うのは病院で出しているお茶の追加と緊急入院等のイレギュラー対応、産婦食くらいだという。給食システムの変更にあたり、海老名総合病院で行ったのは不要な機器の処分と、再加熱カートの導入だった。

1回約330食、病棟ごとに分けられたカート21台分を提供するため、厨房に再加熱カートも21台設置した。そのための電源容量変更工事が大変だったというが、再加熱カートは第一食品所有のものを借りる形になっているため、初期投資はかなり抑えられたそうだ。

再加熱カート
1つのカートで24食分が入っている

切り替え後、病院の食器はイレギュラー分だけでよくなり、殺菌庫も1台しか使わなくなった。厨房機器のメンテナンスや買い替えが不要となり、維持管理費も減った。

「カートの使用料が給食費に上乗せされるので1食分は割高になりますが、メンテや買い替えなどの手間を考えると、現場はかなりラクになりました」(齊藤さん)

なお、もともと完全委託給食だったため、導入後も栄養科スタッフの栄養管理業務に大きな変化はなく続けられているとのことだ。

緊急対応の食事
緊急入院などで間に合わないときは院内のストックを使って食事を提供する

スペースと人の効率化に加え院内のコミュニケーションも活性化

セントラルキッチン方式の給食を導入したメリットを尋ねると、齊藤さんは真っ先にスペースと人の効率化を挙げた。

「部屋の形は変えず機器を入れたので動線効率は良くないのですが、それでも60%くらいまでスペースが縮小できました。空いた場所に倉庫の中身を移し替え、元の倉庫は診療スペースとして活用しています。以前は総勢90人ほど抱えていたスタッフも、今は30人を切るくらい。さらに効率化が進めば、もう少し減らせるかもしれません」(齊藤さん)

人材募集も、以前は朝3時からの勤務があり「当直可能」「調理経験あり」等の条件があったが、現在は誰でもできる作業で時間の制約もゆるやかになったため、人を集めやすくなったという。

反対にデメリットを聞くと「トレイメイクされているからカスタマイズができないことと、オーダー締切が早いこと」。第一食品の場合、締切は24時間前とセントラルキッチンとしては遅い方ではあるが「急性期としてはそれでも難しい」と齊藤さん。

今のところイレギュラー対応には、緊急時用も兼ねてストックしている、温めるだけで提供できるおかずを組み合わせて提供しているという。「院内で調理はしない」という姿勢は崩さない方針だ。また、影響は栄養科だけでなく、病院全体にも及んでいるという。

「以前は栄養科だけで完結していたことも、病院全体で話す機会が増えました。例えば、オーダーの締切が早くなるため他部署に給食システムの説明をしたところ、変更依頼が早くなり廃棄が減りました。そのメリットは年間数千万円に及びます。また、配膳ひとつとっても、タスクシフトも考え『厨房と配膳を担当する人を雇うか、看護助手を雇って配膳と看護補助をしてもらうか』といった相談を、全体を見て他部署と行うようになりました」(齊藤さん)

給食システムを変えランニングコストは若干上がったが、診療スペースの拡充など病院全体で見ればプラスだと齊藤さんは語る。「セントラルキッチン方式は、そうしたトータルコストで考えるのに適していると思います」

栄養科だけでなく、病院全体のコストや収益を考え動くことは、栄養経営士としての考え方のひとつである。ぜひ、海老名総合病院の事例を参考に「自院にとって何が最適か」を考え、業務改革を進めていただきたい。

オーダー締切後の食事移動
オーダー締切が24時間前のため、その後で病棟移動になった患者さんの食事はチェック時に移動させる

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス 海老名総合病院
神奈川県海老名市 病床数:479床
診療科目:21科目 センター:4
管理栄養士:12名(うち非常勤1名)


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